第1弾
お盆にみんなが揃う日、墓じまいは相談から始めよう
食卓の前に、十五分だけ時間をつくる
坂井進さん(71歳)は、札幌市で奥様のカヨさん(70歳)と静かに暮らしています。お盆には根室のお墓へ。東京・練馬の長男一家と、札幌の長女一家が揃う、一年中でいちばん賑やかな日です。
でも去年のお盆、根室の墓地でカヨさんがふと立ち止まりました。「どこだっけ、この墓。」小声でした。長男の孫が手を引こうとして、カヨさんは笑って誤魔化した。帰りの車の中、進さんはハンドルを握りながら、胸のあたりがずしりと重くなるのを覚えています。
墓じまいを考える時期、という言葉はきれいすぎるかもしれません。進さんにしてみれば、「いつかではなく、もう話さないといけない」と思った瞬間でした。
実際に墓じまいを終えた六十代の男性は、こう言います。「いちばん後悔したのは、決めてから家族に伝えたこと。お盆にみんながいるなら、決める前に聞けばよかった。」
お盆は「決める日」ではなく「相談の日」
検索してみると、墓じまいの記事は手続きや費用の話であふれています。でも、いいお墓の調査では、墓じまいをやめた人の約二割が「親戚から理解を得られなかった」と答えています。書類の前に、家族の心の順番があるのです。
檀家費用が毎年ちょっとずつ上がっていることも、進さんには現実的な負担でした。貯蓄はあるとはいえ、老後の暮らしと重ねて考えると、遠方の墓だけに心とお金を割き続けるのは難しい。
進さんが大切にしたのは、食卓の前に十五分だけ席を離れ、長男・長女にこう切り出したこと。「根室のお墓、これからどう守っていくか、二人の意見を聞かせてほしい。決めたわけじゃない。」
遠方のお墓を東京の長男に任せるのは、進さんにとっても気がかりでした。札幌にいる長女にも、負担の配分は公平ではない。だからこそ、お盆の帰省は話し合いのチャンスです。ただし「墓じまいします」と宣言する場ではありません。経験者のなかには、「食卓で突然言われて、頭が真っ白になった」と語る人もいます。
カヨさんの認知症が始まっている今、進さんは「元気なうちに、二人の言葉で話しておきたい」と考えています。判断が難しくなる前に家族で方向を共有しておくことは、専門家の間でも繰り返し勧められています。怖い話ではなく、先のための準備です。
この夏、進さんが家族に伝えた三つのこと
進さんは長い手紙は書きませんでした。短く三つだけ。
一つ目、お墓の管理が体力的にきつくなったこと。二つ目、檀家費用が上がり続けていること。三つ目、いつでも手を合わせられる供養の形も検討したい、という希望。
長男は黙って聞き、長女は「急に決めなくていいよ」と言ってくれました。反対ではなかった。進さんは、それだけで肩の力が少し抜けたそうです。
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